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5.In San Francisco~meet the Arts~(サンフランシスコでアートと会う)

西海岸のアートを見るならサンフランシスコ、と思っていた。毎年アートの缶詰のように濃密なニューヨークのアートシーンに触れているので、実はあまり西海岸に興味が湧かなかったのだが、今回はせっかくサンルイオビスポとの縁があったことだし、2日間ほどサンフランシスコで美術館行脚をしてみよう、と思い立った。

ワイナリーツアーで飲んだくれた翌5月7日(月)の朝、またしても小さな飛行機でサンフランシスコ空港まで飛び、ユニオンスクエアのホテルに荷を下ろした。サンルイオビスポの空港で両面にfragileの赤いステッカーを貼ってもらったスーツケース内のワインは、厳重な梱包により無事である。
さっそく向かったのはSFmoma(サンフランシスコ近代美術館)。ニューヨーク近代美術館に次ぐ全米第2位の規模だそうだ。吹き抜けスペースなどの内装も良く、見て回りやすい設計である。フリーダ・カーロやポロックなどの巨匠作品からミッドセンチュリーの家具コレクションを楽しみ、ブライス・マーデンのペインティングとドローイングを堪能。そして特別展“A Hidden Picasso”“Picasso and American ART”を観た。デ・クーニングやジャスパージョーンズ、ポロック、リキテンシュタインその他、アメリカ人作家による何らかの形でピカソに影響を受けた作品を、ピカソ作品と比較しながら展示・検証していくという、面白い試みであった。同じピカソ展でも、これは飽きない(というか新しい発見のある)企画である。
毎度のことながら、大作を見て歩くと本当にエネルギーを消耗する。ランチは1Fのカフェ・ミュゼオでパスタを。一休みすると元気がチャージされるから、美術館にカフェは必須だと思う。かなりの時間、じっくりと館内を楽しむことができた。

旅先で出会うアートで、もうひとつ関心があるのが建築物である。その土地ならではの歴史建造物から家屋まで、年代を経たものから最新スタイルまで色々見るのが好きだ。何しろふだんからファッション雑誌よりもインテリア・建築の雑誌を集めているくらいだ。
サンフランシスコでは、ぜひビクトリアンハウスの数々を見たいと思い、パシフィックハイツの閑静な住宅街を散策することにした。それにしても坂道の多いこと。かなり暑かったこともあり、路面電車やバスに乗って移動した。
ビクトリアン建築は1860年代〜1900年初頭に建てられ、耐久性の良いアメリカ杉が多く使われているそうだ。アーチ型の外観のイタリア式ハウスやスティック型ハウス、円錐型のクイーンアンハウスなど、いずれもパステルカラーなど、綺麗なペイントが施されている。ストリートごとに、立ち並ぶショップにも特徴が感じられる。アンティークショップ、本屋、オーガニックの化粧品店やブティック、生活雑貨の店など、いずれもお洒落である。
パシフィックハイツの南側に、忽然と現れるのがジャパンタウン。ストリートの看板にも日本語が使われ、日本食レストランから五重の塔まである。桜の時期には盛大なパレードがあるそうだ。移民の時代に始まりすでに日本では消えつつある古きよき文化も、異国で脈々と生き続けているのかもしれない。
チャイナタウンも通ってみた。世界中どこでもチャイナタウンは活発な感じ。家具店や雑貨店を見ると、沖縄で売られているもののほうが質も良く、価格も良いと思う。

翌5月8日(火)、朝から気合を入れてまずはAsian Art Museumへ。シティーホールやオペラハウスの並ぶ広大なエリアに、アジア広域の美術品を収蔵した全米最大規模を誇るアジア美術館だ。旧市立図書館だった建物を改築した館内には荘厳で静謐な空気が流れ、世界最古の仏像は特に有名だ。インド、東南アジア、ペルシャ、中国、韓国、日本と、宗教の伝来、貿易や文化交流のルートがわかる展示内容となっている。貿易の一端で、琉球王国も中国やタイなどと行き来をしていたと思うと感慨深い。
私が一番面白いと思ったのは、江戸時代の“根付”コレクションだ。水戸黄門様の持つような印籠に付けるもの、つまり男性用道具のアクセサリーが主だった古来の根付はサイズが大きい(最大幅5センチくらい)。現代では、帯揚げや財布の飾りに使う女性用の小さなものが主なので、あのように大きな根付は初めて見るものであった。象牙に細かな細工が施され、ミクロの芸術世界である。

次にバスに乗って、ゴールデンゲートパークのDe Young Museumへ。2005年秋にリニューアルオープンした館内には2万5千点以上の収蔵作品があるそう。サンフランシスコの景色が360°楽しめる展望台もあり、屋外の彫刻も多く、ゆったりと楽しめる美術館である。ところでゴールデンゲートパークの広大な敷地には樹木園や水族館、ボートに乗れる池やゴルフのショートコース、サイクリングロードやスタジアムまであり、とても歩いてまわれる距離ではない。ニューヨークのセントラルパークといい、豊かな緑地を持つ都会は理想的である。
さて、ぜひ観たい常設にはエドワード・ホッパーやジョージア・オキーフなどのアメリカ絵画が多い。また、日頃インディアン・ブランケットに興味があり、家の居間用ラグもインディアンの古典柄を選んだりしているのでDe Youngのテキスタイルギャラリーはぜひ見たかったが、残念なことに何かのインストールのため閉鎖中であった。が、親切な係員が資料室に入れてくれたので、膨大な布地サンプルをストッカー(引き出し式)で見ることができた。特別展では、Deborah Oropalloのピグメントプリントによる人物が面白い。また、Elliot Andersonのランドスケープ。いずれも古典的なモチーフに現代の情景を幾重にも重ねて光の効果を出した不思議なプリント作品が主である。
大きく開催されていた特別展では、イギリスのファッションデザイナーVivienne Westwoodの回顧展があった。パンクから王室調デコラティブまでつねに話題を撒いてきた36年間のデザインが、服、靴、舞台衣装から映像まで、一挙に並んでいた。懐かしいものもあった。私は小物しか買ったことがなかったけれど、ビビアン一色に凝っていた人も80年代にはかなりいたと思う。

サンフランシスコにはギャラリーも多く、ユニオンスクエア周辺だけでも40軒くらいあり、どこもニューヨークと同じく現代アートで賑わっていた。画廊でもらったgallery guide誌はニューヨーク版の10分に1程度の厚みであったが、どこも充実した現代作家展が開催されていた。写真や版画、ペインティングと、いずこも“壁もの”が主流になりつつあるような感じがした。
80年代設立のArt Exchange Galleryというところに入った。壁一面にびっしりと新旧作品が並べられ、見ると現存作家もののリセール品である。アートを売りたい現在の持ち主と画廊とでリセール価格を決め、欲しい人を探すということを専門にしている。オンラインでも膨大な作品リストが見れるということで、活用する人は多いだろう。しかし同じ画廊でも、この画廊の壁は作家にとっては寂しいかも。
サンフランシスコでは、ビジュアルアートの他パフォーマンスアートやフィルムアートも盛んで、サンフランシスコインターナショナルアーツフェスティバル2007が5月16日から2週間開催されるという。ダンスあり、サーカスあり、演劇にコンサートと、こういうイベントに合わせて訪れ、日替わりで各種アートを鑑賞するのは楽しいだろうなと思う。

さて、私もそろそろ自分のアトリエに帰って、描きかけの絵に筆を入れたくなった。

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