レポートTOP


2.パブリックアートと人と街

ダウンタウンの中心部に、San Luis Creekという小川が流れている。緑豊かなその周辺は居心地良く整備されていて、カフェやレストラン、広場、ガーデンテラスなどがあり人々が思い思いの時間を過ごす場となっている。石や木で趣向を凝らした橋がいくつもかかり、川を上方から望むこともできる。川や小道沿いのあちこちに、面白い形の彫刻が設置されている。これは、サンルイオビスポ市の取り組みにより何人かの地元彫刻家がそれぞれ手がけた作品である。
行政と芸術が自然と溶け合い市民の憩いの場を作り上げるのに成功した事例だろう。人があってのアートである。アートのある空間に、人が集まらなければ寂しい。

だいぶ種類は違うが、通り沿いの建物と建物の隙間に面白い空間がある。Bubble gum alleyと呼ばれ、1メートル程度の通路を挟み両側にそびえる壁一面に、噛んだあとのガムが色とりどりにびっしりと張り付けられている。ジャクソン・ポロックがさらに厚みを増したような前衛アートに仕上がっている。地元高校の紺ジャンパーを着た一団がずんずん入っていくのでボランティアで撤去作業でもするのかな、と思ったら、みな一様に口から出したガムを新たに張っていた。市民参加型の壁画だ。

街中いたるところにカフェがあるが、Mission Mallの裏手、川沿いの広場がひときわ気持ちの良い空間となっていて、週末ともなるとパラソルを広げたガーデン席の小さな舞台で様々なコンサートが開かれる。その日は、ジャズのカルテットによる演奏だった。高々と繁る木々の間からの優しい日差しと、川辺を伝う涼やかな風にウッドベースとサックスの音色が解け込み、なんとも贅沢なひとときを過ごすことができた。ダウンタウンでは音楽もまた、アートと同様パブリックな空間に溢れているようだった。通り沿いのレストランも戸口を開け放ったところが多く、メキシコ料理店ではマリアッチのギターが外まで流れてくるし、パブの窓からはロックの演奏がガンガン響いてくる。ホテル近くの寿司バーを覗くと、ダンステリアが出来上がっていて若い女性たちがダンスミュージックで踊っていたのがミスマッチで面白かった。

歴史的建造物も多いダウンタウンでは、小さなテーマに特化した博物館や、古い様式の家を丸ごと公開した博物館などがあるのも特徴だ。
全米で最も古く、スペインからの入植の歴史をたどる博物館としては、今も礼拝や行事で人の集う1772年設立の教会Mission de Tolosaがある。当時の生活や農耕の歴史・文化を偲ばせる資料や道具類が展示され、ミュージアムショップも併設されている。私は家族の人数分、お守り代わりにとピューター製の小さなチャームを買った。
ふいに荘厳に鐘が打ち鳴らされ、礼拝堂の木戸が開いて着飾った人々がさざめきながらなだれ出てきた。結婚式だ。美しいドレス姿の花嫁は、教会の周辺と広場に集う人々の視線を一身に浴びる、煌びやかな最上級のパブリックアートだ。末永く、幸せに!

            
 
前ページ↑  ↓次ページ