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1.娘と一緒にTemporary New Yorker。



子連れNYもいよいよ最終回、末娘の番である。長男・次男の時と同じく思春期真っ最中の中学2年生。3人目、しかも女の子とあり随分前の2人の時と様子が違う。14歳という年齢では基本的に女子のほうがしっかりしている。
何一つ考えずにとりあえず飛び出していく鉄砲玉の男の子達と違い、娘は事前にマンハッタンの歴史から名所に至るまで調べ上げ、旅の支度も手際が良い。メモを取るためのノートにタイトルを書きこみ、友達への“お土産リスト”まで余念がない。おかげで私は何のストレスもなく、旅立つ前日までのんきに構えることができた。
サブプライムローンの余波と原油高騰、環境問題、世界中にじわじわと広がるリセッションで閉塞感いっぱいの時代だが、人間はたくましいからきっと光を見出すことはできるはず。アートはどの世紀にも優しさや希望、生きる力や勇気を発信してきた。この旅でも、すでに画廊に展示されている自分の作品を含め、たくさんのアートとその裏側(アーティスト、画廊主、顧客、友人)との出会いを期待しつつ、意義のあるものにしていきたいと思う。
回は、「ぜひ泊まるように」と勧めてくれたハーレム在住で10年来の友人・テキスタイルデザイナーの謝敷宏さんとパートナーのご自宅のゴージャスなゲストルームでの優雅な滞在となった。
娘にとって初の外国、初の英語環境と何もかもが新しく、私の友人達や画廊のディレクター、お客さんなど大人ばかりの世界である。謝敷邸では機転を利かせてはきはきと手伝いを申し出たりと、なかなか頑張っている様子。大いに成長が期待できそうである。

さて、メトロカード・7days passを買ってNY初日にふさわしく、まずはSouth street sea portからリバティークルーズ1時間コースに出発。チケットはネットで購入していたので待ち時間もなくスムーズに乗船することができた。これは、どうしても自由の女神を間近に見たいという娘の希望に沿うため。ツインタワー跡地を含め、巨大ビル群を回り込みながら遊覧する光景は圧巻だ。これほど巨大で濃密な都市は他にないだろう。
船を降りたら今度はその都市の中枢・世界経済を牛耳るwall streetを散策する。かつて奴隷市場だったその界隈にはfederal hallや連邦準備銀行、ニューヨークで一番古い教会Trinity Churchがある。余談だが資金にめぐまれたこの教会には不動産部門があるそう。ビジネス街に違和感なしと納得。
教会に入ってステンドグラスを眺めながらしばし座っていたら、ラッキーにもパイプオルガン奏者の練習が始まった。今も荘厳な音色が耳の奥によみがえる。

お次はガガーっと地下鉄でミッドタウンまで上って、近代美術館(MoMA)のダリ展へ。友人から借りたメンバーカードのおかげで、$20もするadmissionがタダになった。ここでの目的はDali:Painting and Film展。ペインティングとダリが関わったフィルムがディスプレイされていて、ダリが映画人たちに与えた影響やコラボレーションの軌跡がよくわかる特別展となっていた。
娘には、渡米前に美術の教科書にじっくり目を通すように言ってあった。「本でみた“あの絵”の本物!」という感動をまず味わうことが肝心だ。そこからはおのずと子供自身が検証していく。すなわちじっくりと画面と向き合い、テクスチャーや色、ディティールに印刷物で見たのとは明らかに違う発見をしていく。絵の大きさが以外に小さかったり大きかったりという発見も、美術作品と対面するときによく起こることである。百聞は一見にしかず。10代・20代で多くの“本物”に触れてもらいたい。
他にもMoMAではピカソの彫刻展やロスコの絵画など盛りだくさん。とりわけ私の関心があったのは、Dreamland:Architectural Experiments since the 1970sという特別展で、当時のニューファミリー向けコンパクトな建売住宅とユートピアの構想が紹介されていた。写真の展示や、その頃の規格品建材を組み立てて建具を再現してあった。船室内部のようなカップボードや小さなキッチンがつつましい。しかし、何でもゴージャスになりすぎて資源も枯れかかり、災害も増えてきた昨今、よりコンパクトな住まい方を実践しなければならないとも思う。その点カプセルホテル用のユニット等はかなり良さそう。

さて、ウディアレンのニューヨークに思いを馳せながら(今は英国を拠点としているらしいけれど)、お決まりコースのCarnegie Deliで遅いランチ。パストラミの巨大サンドイッチを2人でシェアしてもまだ余る。とてもおしゃべりな名物ウェイター氏に当たり、近辺のテーブルを巻き込みお喋りの渦に。明日も来るようにと言われたが、いやもうこれだけ食べたら当分は結構ですという感じ。でもきっとまた強烈に食べたくなるコウシャー(ユダヤの食物)のあの風味には、どこか懐かしい忘れがたい魅力がある。

滞在中のNYは猛暑。一休みするのにうってつけのスポットがMoMAの並びにあった。ペイリー・パークと呼ばれる人口滝のあるオアシスで、カフェのように椅子やテーブルが置かれ、自由に休めるようになっている。娘と二人、滝の飛沫にわざわざ当たりながら涼んでみた。

Hello, NY! テンポラリー・ニューヨーカーの私達を明日もよろしく!

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