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3.Storm King Art Center・太陽と静寂
 

年齢のせいかマンハッタンの単なる雑踏にはすでに興味を失っていて、もっぱらアート三昧のみに熱中している。数年前からさらに症状が悪化(?)して、どんどん郊外へ郊外へと気持ちが先走ってしまう。
そんな私の気分を察したかのように、親切な友人がレンタカーを手配してハドソンバレーの野外彫刻美術館・Storm King Art Center へ連れて行ってくれた。

Zipcarというレンタカーのシステムがあり、会員は電話一本、会員カード一枚で前の使用者から車を受け取り、カードのパスワードでロックを解除し、中に置かれた鍵で出発という仕組み。給油もカードで簡単にでき、都会生活者にピッタリな様子。
運転してくれたPhilipは、道々ハドソンバレーのあるオレンジカウンティの歴史などを色々教えてくれた。娘は、ちょっとモヤのかかったハドソン川の雄大な景色に魅せられ、走れど走れどいつまでも続く大地の広さに大興奮である。
ところで道行く車は一般的にはトヨタ、ホンダ、日産、マツダという感じ。
途中でランチピクニック用の中華をテイクアウトしたりコーヒーを買ったりしながら楽しいドライブは続き、一時間半ほどでエントランスに到着。早速ピクニックエリアで美味しいランチを頂いた。

Storm King Art CenterはMountainvilleという町にあり、500エーカーの広さを誇る森林や池、綺麗に手入れされた芝のランドスケープは見事。ゆとりを持って配された有名彫刻家による巨大作品が見事に自然と調和し、静かな雄姿を見せている。
さて、1点1点をじっくり鑑賞し、手触りを確認しようと思うとかなりハードなハイキングである。全て回るには数時間を要するが、やはり間近で見る迫力はこたえられない。要所要所でお茶を飲み、一休みしながら酷暑の野原を果敢に進んでいった。真夏の平日の昼とあり、歩いているのは私達4人だけ。灼熱の太陽の下、息も絶え絶え登ったり降りたりを繰り返し、Andy Goldsworthyによる石塀のアートが大蛇のようにうねりながら池に消え、さらに向こう岸に上がって延々と続いていく作品のところまでたどり着いたとき、人を発見!70歳近いと見られるご婦人で、ハイキングパンツにスニーカー、手にはトランシーバーを持っている。美術館の解説員であった。この暑いのに、丁寧に石の由来など教えてくれた。Storm King Wallというタイトルのこの作品は、積んである石を抜き取ろうと試みる人がいるそうで、その見張りとしての役目もあると話されていた。
公式パンフレットを見ると、このセンターは1960年、Ralph E.OgdenとPeter Sternにより設立されたそう。はじめのうちはハドソンバレーの画家のための美術館を思い描いたOgdenだったが、オーストリアの石切り場を訪れてのち彫刻に興味を持つようになった。そうしてDavid Smithの作品設置を皮切りに今のセンターが徐々に構築されていったと説明されている。

美術の世界では、常に破天荒で壮大なスケールの構想と信念、さらに執着心の強いコレクターが作り上げてきた殿堂は数多い。それらが後世に感動を残し、人を育て地域、ひいては国を活性化させるのだから本当に敬意を表するべきだろう。

だいぶ歩いた頃、敷地の中央にミュージアムビルディングが見えてきた。もともと居住用の屋敷を改装したもので、フレンチ・ノルマンディー様式の古めかしい床や建具もそのままに、Sol LeWittの企画展が行われていた。
平面しか創作できない身としては、彫刻家の3Dの世界を創り上げる才能にいつも感嘆するばかりだが、Sol LeWittの作り出す空間には特別なエアポケットがあり、いつも吸い込まれるような気がする。

敷地内にはまだ製作途中の作品もあり、大地の草の成長を待ちながら創り上げる気の長いプロジェクトがあった。
完成した頃にまた訪ねることができたら、と楽しみである。

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