レポートTOP
5.Cold SpringのアンティークとABC Carpet

私はふだん毎日家の中に居る。朝から夕方までアトリエに篭りきりで製作している。県内外・海外の展示会で出かけたり、会合で出たりする以外はほとんど一歩も出ない。そのせいかどうかは知らないけれど、家のインテリアを整えるのがすごく好き。アトリエは雑多で滅茶苦茶だけれど、居間や寝室を中心に憩いの場を作るのがすごく楽しい。沖縄には昔から中国家具など割に良いものが沢山来ていて、コンテンポラリーなものも多く揃うから基本的なものにはまったく不自由しない。
最近海外で散策して面白いと思うのは、アンティークショップとカーペット屋だろうか。
ハドソンバレーの彫刻美術館の帰りに、Cold Springという町に降りた。とにかくこのハドソン川沿いには古い教会やワイナリー、ホテルやレストランのある魅力的な町が点在していて、Tarry Town, Nyack, Beaconとそれぞれに車や列車で毎週末人がやってくるメインストリートがある。

Cold Springには川沿いの公園を庭のようにして宿や個人の別荘などが並び、景色を楽しみながらゆったり過ごせるようになっている。ストリートにはチキン料理が美味しいというレストランやカフェ、バーなどがどこもこじんまりと店を開けていて、良い雰囲気。
ちょっと坂になったそのストリートを歩くと、両側ほぼ3軒に一つの割合で、アンティークショップがそれぞれ得意とする分野の品物を窓辺や入り口に飾り、道行く人の足を止めている。コレクティブルの食器専門、古い民具専門、アクセサリー専門、家具やカーペット専門など、どこも店主の好みに彩られている。
そんな店主たちの中には、週日はマンハッタンでオフィス勤めをして週末だけこの「夢のお店」を開く人も多いのだそう。たいてい店の2階は住居のつくりになっているようだから、骨休めをかねて田舎で過ごし、また街へ戻っていくオーナーや、大型の夏休みだけオープンするという店もあるようだ。
あわただしいけれど、街と田舎とで全く別の人物になれるというのは愉快なことではないだろうか?

とある間口の小さな骨董屋に入って驚いた。人ひとり通れるくらいの通路がずいぶん奥まで続いていて、その両側に4畳ほどに区切られた店がぎっしりとひしめいている。それぞれ布類とか銀製品、家具と様々。食器の店に至っては身動きもとれない狭さなので何か落として割ってしまいそうでかなり危険。
しかし店主はI don’t care anythingという感じでのんびりしている。一番奥の、突き当たりの部屋に着く頃には酸欠になりそうな息苦しさ。そこでは上品に着飾った年配のご婦人が、宝石や昔のコスチュームドレスの棚の間に「何かお探しかしら?」とにこやかに座っていた。「外への出口を探してます」とも言えず、Uターンして一列にもと来た通路を進んで表へ出た。
その日は金曜日だったのでそれほどの人出はなかったけれど週末はとても混むのだそうで、大柄な人だととてもあの通路は無理だゾと、つい余計な心配をしてしまう。面白い敷物や、硬い木をくりぬいたボウルなど欲しいものもあったけれど、どれも大きさや重量がすごいので持ち帰りは断念。
川を眺めながらしばし皆でお茶を頂き、帰途についた。運転してくれた友人が途中Yonkersからなかなか抜けきれずぐるぐると通りを巡る(いつも迷うのだそう)。友人には悪いけど私と娘は普段見れない家並みが見れて、それはそれは楽しかった。

さて、マンハッタンでぜひ行きたい店に、ブロードウェーを挟んで2ヶ所にまたがる大型家具店ABC Carpetがあった。美術館並みにたっぷり時間をとって挑まねばならない巨大ビル内6階までの各フロアに、様々は家具や生活雑貨、食器、アクセサリー、シャンデリアなどアンティークから現代モノまでを網羅する品揃えは圧巻。特にカーペットは倉庫とショールームどちらも広大で、とても一度に見てはまわれない。
持ち帰りは叶わずとも、ここにいると完璧にインテリアの参考になる。アートのイマジネーションの元としても大変ヨロシイ。
店の奥にはカフェもあり、美味しいと評判のケーキとコーヒーで一服することもできる。カフェは探さないと辿り着けないくらい地味なところにある点がまたヨロシイ。
娘も小さい頃から洋服よりも家具やランプの店などを私と見て回るのが好きだったので、自然と色々見て吸収している模様。まぁそれを自分の部屋の整理整頓に活かせるかどうかは別だけれど。

家や家具は国それぞれの文化に沿って作られている。歴史や気候、生活様式に応じた道具や装飾品がある。
世界が狭くなった今は、あらゆるものをどこからでも調達できる。それをミックスして飾ったり使ったりするのは楽しい。
しかし一方で、その国独自のものにこだわり、狭い範囲で楽しみたいという気分もある。世界中どこへ行っても同じ雰囲気になってしまったら、つまらないだろうと思うのだ。
以上を踏まえ、我が地沖縄で、何をどのように揃え、ひいてはどう生きるかを、丁寧かつ真剣に考えていきたいと思う。

                  前ページ↑  ↓次ページ