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NYレポート 2003


 1. 子連れ狼 真冬のNYへ

 1年ぶりに、ニューヨークの画廊で展示会に参加することになった。今回は1月。初のNY・冬体験である。毎年恒例・12月の沖縄個展を終えたばかりで、NYへはようやく作品を何点か発送したが、なにしろ寒さに怖気づいて渡米の決心がつかないでいた。「やっぱり行こう」と決定したのが渡米2週間前。おまけに、中学2年生の長男を連れていくことにした。息子のパスポートも、搭乗日のわずか2日前に発行されるというぎりぎりセーフである。

いきさつはこうだ。中学生といえば思春期の真っ只中。大人への自立の過程で何かしら問題を引き起こす。親、教師、友人、地域と、色々な人間関係のなかで揉まれ、自分自身を見つけて行くのだろう。昨年は一時期そんな息子の成長の「きしみ」に私は随分巻き込まれた。
今まで生きてきた人生すべてを見つめなおし、反省し、行動の理由を説明付け、自分の足跡を辿りながら雑草を抜くような、苦しい作業であった。要は子供と同じ年の自分はどうだったかを思いだしつつ対処すれば良いわけだが、子育てにマニュアルはない。子供を育て、一人前にしていくことの、難しさと醍醐味を大いに味わう経験であった。
私の周りには、子供の学校や地域でのお付き合いの中、仕事で出会う人達の中、そして古い友人たちと、見事に子育てを実行している人が多く、アドバイスや励ましをもらったり、体験談を披露してくれたり、まるで自分のことのように一緒に泣いたり考えたりして頂いた。感謝しても足りないとはまさにこのことである。
ちなみに息子は現在、あの反乱は何だったのかと思うほど、友人に恵まれ、はつらつと地域活動やスポーツにいそしんでいる。
そんな中、愛情や親のつとめである「衣・食・住」の充実以外に、何か私が3人の子供達に与えられるものがあるだろうかと考えた結果、毎年展示会で行くNYに、一人ずつ連れていくことにした。人種や宗教が混ざり合う世界一の都会を歩くだけでもなにかしら得るものはあるにちがいない。しかしある程度危険回避のできる年齢や体格でなければならないし、仕事を兼ねるので荷物持ちなど、少しは役にたってもらわねばならない。また、好奇心と吸収力に富み、何か発見するだけの感受性がなければ何を見せても意味がない。
中学2年生という時期は、どれをとってもうってつけの好条件である。

さて、平均−3℃という未体験の気温に対処するため、渡米前に24時間NY市内を映したインターネットのライブカメラで道行く人々の服装をチェックし、1月10日、完全武装して旅立った。
成田に到着したとたんボブ・サップを見たと狂喜し、機内で読むようにと持たせた英会話の本やガイドブックに混じってちゃっかりいつも読むスポーツ専門誌をしのばせている息子の姿に「航空券代損したな」と一瞬思ったが、やはり人間一番好きなものは片時も手放せない、ということだろう。息子が今打ち込んでいるのがバドミントンなのだが、念が通じたとでも言おうか、のちに宿のテレビで、普段まず観ることのできない有名な中国人選手の試合を、彼はつぶさに観戦することができたと喜んでいた。NYには特有のテレビチャンネルがあり、チャイナタウンの中国系人向けの番組だったというわけだ。

アラスカ上空にさしかかるあたりから、窓の外は白々と雲が輝き、眼下には湖の点在する果てしない大地が広がる。
息子14才、生まれて初めてよその国の土地を見た瞬間だった。

                     

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