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Tamikoさんのアーティストキャリアは長く、安全ピンを編んだオブジェは有名で、全米の画廊や美術館、またパブリックアートとしての展示も多く、年齢を感じさせないフットワークの持ち主である。成人した子供達は、それぞれオーケストラの演奏家やアーティストなどとして活躍している。「子供のほうが私より先に、専属画廊ついちゃったのよ」と楽しげに笑うTamikoさん。アートに取り組むまなざしは真剣で、たとえ自分の子供といえどもライバルだ。
早くまたNYへ行き、再会したい。

世界中どこでも、より良いアート活動を続けるには生活基盤を含めた土台作りがまず大事で、一般常識や社会参画もとても重要だ。レジュメやステイトメント作りからアドバタイジングなどのビジネス面でも、社会での経験が浅いと不利になる。人脈も大切な宝となる。NYで成功しているアーティストやディーラーは、意外にもアート以外の畑出身者が多かったりする。美大ではビジネス実践は学べないのが現状だ。

の競争原理社会のアメリカでさえ、そうした売り込みやキャリアアップに悩むアーティストは多く、美術学校や美術館、アダルトスクールなどでは「レジュメの書き方」「アートシーンへの売り出し方」「スライドの撮り方」などといった特別講座も人気だそうだ。ちなみに、自力で世界に出たいなら英語力は必須だろう。
パーティーで客と話していると、時々アーティスト志望の人からいろいろ質問される。どうすればアートシーンに出られるかと。そう尋ねる20才台の米国人青年は、絵を描きながら大きな不動産会社に勤め、住まいはマンハッタン、しかも独身だ。「何でも出来る環境でしょーが、あんた!頑張りなさいよ。それより私に格安で部屋貸して〜」と訳のわからない話のすり替えをしたくなる。
私とてラットレーサーの1人として必死にもがいているだけなのだが、競争の激しいNYでは特に、展示できるだけでもラッキーなのだとつくづく実感する。

パーティーのあと、友人達と雪の積もる夜のチェルシーを徘徊し、心地よいフレンチ・レストランで夜が更けるまで会話を楽しんだ。

翌日、早起きしてクイーンズの近代美術館のピカソ・マティス展へと向かった。大変な寒さで、地下鉄入り口のスタンドで買ったコーヒーもたちまち冷めてしまい、雪のため傘も手放せない。
そして、やはりというか美術館入り口には、オープン時間ぴったりに着いたにも関わらずすでに長い列ができていた。延々待つこと1時間。しかも外で、傘さしてだ。ちょうど、私の前に1人で並んでいたドイツ人の女性がおしゃべり相手になってくれて助かった。ドイツで学校を卒業後、長らく働いて、今また
ワシントンDCに学生として住んでいるという彼女、ピカソの踊り子の絵を観たくてこの特別展に来たという。


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