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たった3日のNY
年に一度、アートの中心地NYで展示会を開くようになって3年がたつ。昨年のNY展
は夏。何かと用事の重なる頃だったため、渡米はあきらめて作品のみを送るつもりであった。展示会の期間は3週間。初めての画廊で、現在ソーホー地区をしのいでアートの中心となっているチェルシー地区での展示。前の年、ソーホーでの展示を観に来てくれた画廊オーナーとの縁で、アクリル画「楽園シリーズ」の大作を引っさげて夏のグループ展に参加することになったのである。
展示会では、オープニングレセプションというお披露目パーティーが要となり、実に様々なお客やアーティスト、画廊関係者が集まり、毎回とても刺激的だ。
用事が片付いて、急遽「行けそうだ」ということになったのが、パーティーの一週間前である。しかも可能範囲は3泊のみ。パーティーをはさむ日程でまず航空券を予約し、いつも泊まるホテルにメールで空き部屋の確認をする。リピーターの強みで、お気に入りの中庭を見渡せる部屋を指定すると、快く受け付けてくれた。あとはドルの準備をして、持ち物を整えるだけ。飛行機の現地到着時刻によっては、ホテルまでの安全を考えてタクシーを利用したり、事前に10人乗りのスーパーシャトルを予約したりするが、今回は夕方までにはNY市内へ行けるため、普通の空港リムジンバスで充分だ。
NY行きも何度目かになると、淡々とした準備過程となるが、たった3日のNYを有意義に過ごす為には、一極集中型の旅程がふさわしい。私は、自分の画廊以外の行くべきところをかなり絞込み、計画をたてた。あまりに短期間なので、ごく少数のNY在住の知人にのみ知らせ、ほとんど人知れず行くことにした。
渡米準備と並行して、発つ前に済ますべき仕事はもちろん家事労働も3倍速で進めなければならない。家の中を、夫や子供達に分かりやすく整え、「あと2日で出発」と思うと、なぜか風呂場やトイレ、玄関掃除にコンロ周りの掃除、果ては一年間ほったらかしの繕い物まで引っ張り出して片付けてしまうのだから、旅の効用は計り知れない。あとは、両親や子供の学校の担任、一緒にPTA活動をしている友人達に不在期間を知らせてようやく落ち着く。これだけ身を削って準備するのだから、「転んでもタダでは起きなく」なるのも無理はないと、我ながら思う。ということで、行きの羽田―成田間の約6時間を有効に使おうと、度々仕事でメールのやり取りをしていた東京の画廊のオーナーと会う約束をする。
7月、灼熱の東京の空の下、画廊や近くの美術館を案内してもらったひとときは、3日間の、濃厚で情熱的なアートの世界への入り口だ。