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                     6.アーティストにできること

昨年9月11日の同時テロ事件は、世界中を震撼させ、各方面に多大な影響を与えた。勇敢な救助隊員を含め貴重な命を落とした被害者、罪もないアフガンの人々。あらためて冥福を心から祈りたい。
その日、私は自宅の居間でTVを観ていた。何よりも絵を描く時間が大事でめったにTVを観ないので、本当に偶然としか言いようがないが、スイッチを入れてわずか10分ほどで、煙を上げたWTCビルが突然画面に現れた。つい2ヶ月前に訪ねたばかりの、大好きなNYがやられた、と思った。急いでインターネットを立ち上げるが、NYのサイトは心なしかどこもアクセスが悪い。おまけに、たまたまメールアドレスブックがパンクしてNY関係の知人を含む全ての大事なアドレスを消失させてしまい、誰とも連絡できない。まんじりともしないでいるうちに、中国の陶器メーカーのヤンさんからメールが入り、恐ろしい攻撃への驚きと恐怖、怒りについて語り合って少し落ち着く。彼は、WTCビルに入居している親しい取引先の安否を心配している。さらに夏のNY展で出会った大阪在住のアーティストからメール。彼女も、NYのアーティスト仲間を気遣って落ち着かない。その後、NY在住の友人からメールが来て、「Don't worry. I'm safe.」のメッセージ。突然ふりかかった不安を慰めあうように、しばらくあちこちとのやり取りが続く。こんなとき必要なのは「会話」なのだ。ネットの重要な役割が、ありがたく身にしみる。
 世界中の誰もがそうであったように夜通しTVをつけ、それから一週間ほど、ことの行方に気をもんだ。外で吹き荒れる台風が、いっそう不安感をあおる。
 テロはNY、そして沖縄の観光産業へもダメージを与えた。テロ以降、NYも沖縄も、同じように観光客を呼び戻すキャンペーンを様々な角度から展開している。今、誰もが平和の意義と存続を模索していると言えるだろう。
 自分には何ができるのか―。人は皆、役割や専門分野を持っている。私は私のフィールドで、最善を尽くす必要がある。沖縄が好きで来てくれる人たちに、私の絵を通してもっと沖縄を好きになって欲しい。そんな気持ちで描き続けていくことが、私にできるささやかな仕事だと思っている。
NYでは昨年秋、アーティストや150もの画廊が立ち上がり、「I love NY art benefit」と銘打って、売上の全てをテロ被害者やその家族に寄付するためのイベントを行っている。期間中には画廊めぐりのウォーキングツアーも企画された。自由の女神がツインタワーを抱き上げたモチーフのロバート・ラウシェンバーグのモノクロポスターが、これ以上何も必要としないほどのシンプルさで目を、気持ちを釘付けにする。アート作品の持ついのちの永遠性は、観る人の心に安らぎと暖かい癒しを注ぎ込むものと信じる。
全ての破壊的なものに決して屈することなく創造し続ける。―これがアーティストの姿ではないだろうか。私も自分の居る場所で、アーティストであり続けたい。I love ニューヨーク。そして、沖縄。


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