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5.みんな集まれ
NYの美術館は主に市や州、団体や協会、サポートメンバーによって運営されている。常設展示を軸に、コミッションで練り上げた企画を、3〜4ヶ月などの長いスパン、テーマによっては1年かけて1部、2部と大掛かりな構成で展示する。入場料が必要で、会員になれば年間通じて割引などの特典がある。現在NYに大小合わせて約200軒あると言われている美術館は、近年入場者が減っており、数年前からあの手この手で客寄せの工夫をこうじていることは、時々報道されている。
昨年の夏、メトロポリタン美術館での企画「ジャクリーヌ・ケネディ展」をのぞいた。5月から3ヶ月間続いたその企画は、大手美容メーカーロレアルの協賛によるもので、ファッション誌などのメディアで取り上げられ、ファーストレディも列席する華やかなレセプションで開幕した鳴り物入りであった。特に興味はなかったが、7月の、期間も終わりに近づいた頃なので混雑もしていまいから、話の種にと朝一番に美術館に到着してみて驚いた。チケットブースから延々と、展示室まで廊下をあちこち曲がりながら大蛇のような行列が連なっていたのだ。「しまった」と思ったがここまで来て後には引けない。並ぶ苦痛を乗り越え一時間後にたどりついた展示室に観たものは―主にジャッキーが実際に着た衣装やバッグ、夫ケネディとの写真パネルや映像など。ジャッキーの好みに飾られたホワイトハウスの一室を再現したというコーナーは、家具のむこうの壁や柱などは、ペンキで描いただけという状態で、演劇の舞台の工夫すら無い。ビクトリア時代の衣装展などであれば、歴史ある重厚なアンティークの見応えもあろうが、わずか数十年前のモダンな服を見せられてもさほど感動はしない。おまけにどの展示品の前も黒山の人だかりでろくに鑑賞もできない。小さな不愉快さをかかえて会場を後にした。結論―興味のあるものだけを観るべし。それにしてもジャッキーは、永遠に米国人のミューズなのだ。
親切な友人のおかげでクイーンズ地区の美術館PS1の「Warm
Up 2001」という、夜9:00までのイベントに参加することができた。会場が見えてくる頃から大音響のダンスミュージックが聞こえ、入り口から中庭までNY中の若者が集まったかと思うほどの賑わいだ。あちこちに置かれたビニールプールに漬かって涼む人、ビールを飲みながら踊る人、特設のダンスホールの中では人気DJのショーが行われ、人でごった返している。もと小学校の校舎を利用した展示室では何十もの企画展が行われていて、廊下までアートで溢れている。若手日本人アーティストによるサブカルチャーの企画展「BUZZ
CLUB」では、ビニールのキャラクター風船がぎっしりと展示され、ステッカーなどのお土産がもらえる。巨大な蜂の巣状の六角形の箱を覗くと、キッチュで懐かしい、日本の夜店で売られてるような玩具が並んでいる。インド出身アーティストを中心としたプロジェクト「I
love TAXI」では、特設のカフェやマンハッタン内の公園でのパブリックな展示を含めて、地下鉄と並ぶ市民の足“タクシー”にスポットを当てた楽しいものであった。
メトロポリタンのジャッキー展では「美術館で展示する必要がある?」、PS1では「ここはほんとに美術館?」と素朴な疑問が湧いてくる。ものの定義は時代と共に変化する。「美術」の意味も、ずいぶん広くなっているのかもしれない。いずれにしても、「楽しいところ」に人は集まるのだ。