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                            4.言葉は心をつなぐもの

 初めて外国人と接するとき、どぎまぎしない人はいないだろう。黒船から降り立った異邦人と接した日本人の恐怖は、想像を絶するものがある。しかし恐怖は何も日本人にとってだけではない。長い初めての航路を延々とやってきて、未踏の島に上陸し、見たこともない人種とのコンタクトを試みる側の勇気も大変なものである。
 世界中とアクセス可能となった現在、“どぎまぎ”の原因は主に「言葉」である。世界の共通語としてしぶとく君臨する「英語」。英語が母国語の人たちは、必死で話そうと試みる人間の言葉を待ち、理解すればよいだけなのだから、羨ましい限りだ。不思議と、沖縄にいて外国人と話す時より、NYで現地の人と話す方が、緊張しない。緊張している場合じゃないということもあるが、英語圏に居る人は英語が話せて当然、という空気があり、上手くなくてもしゃべれているような気がするからおもしろい。第一、普段の会話など、英語だろうが日本語だろうが他愛の無いものばかりだ。画廊のオープニングで会ったニュージャージー在住の画家、キャシーとの会話。「私も主婦なんだけど、絵を描く時間を確保するのって大変よね〜」とキャシー。京子「だからよ〜。ご主人のお仕事は?」、キャシー「金融関係。証券の仕事なの」、京子「それじゃ残業多いでしょう」、キャシー「そうなのよ〜。家のことは私一人でやらないといけないから大変さー」、京子「絵が売れるようにお互いがんばろうねー」・・とまあ、これが英語になっただけである。言葉は心をつなぐための道具なのである。
そもそも、NYには世界中の人種が集まっているので、英語はまさしく共通語として、便利でありがたい言語なのだ。
 「英語」の便利さは、英語圏でのみ実感するものでもない。昨年10月に個人画廊をオープンした際、商品としてオリジナル食器を作ることになり、中国の陶器メーカーに発注することになった。その会社の社長はヤンさんという30代後半の男性。米国で大学を卒業した後8年間住んでいたというヤンさんの英語は完璧だ。食器の生地やデザインの相談、金額や発送の取り決めまで全て英語で契約し、2ヶ月ほどで無事、製品が到着した。
 メールでの打ち合わせの合間に、おのずとそれぞれの住んでいる場所の話になり、私は沖縄、ヤンさんは自分の住む青島(チンタオ)の歴史や文化を紹介し合い、観光サイトを添付したりして盛り上がった。私にとっては大学時代の「英作文」の課題なみに時間がかかって四苦八苦したが。あるとき、ヤンさんは遅ればせながら私が女性であることに気づき、しきりに失礼したと詫びている。おじさんぽい物言いでも連発したかなと一瞬ひるんだが、中国では画家や起業家には男性が圧倒的に多い上、英語には男女の別がないので、勘違いするのも無理はないと大笑いになった。たった26文字のアルファベット、何も限定しない自由な言語として、英語はやはりもっとも世界共通語にふさわしいのだろう。
 NYのチャイナタウンは、規模の大きな中国人街として有名だ。世界一の品揃えを誇る「パールペイント」という画材店がめあてで、私はよくそこを訪れる。漢字の看板がびっしりと連なる中国語オンリーのディープな別世界で買物するニューヨーカーたちは、いつでも異人種と心をつなぐ努力をしているようだ。




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